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最高裁判所第二小法廷 平成8年(行ツ)147号 判決

岡山県倉敷市児島味野四丁目四番一三号

上告人

大中髙重

右訴訟代理人弁護士

篠原芳雄

篠原由宏

中野正人

岡山県倉敷市児島小川五-一

被上告人

児島税務署長 筒井正史

右指定代理人

渡辺富雄

右当事者間の広島高等裁判所岡山支部(平成)六年行コ第二号青色申告承認取消処分等取消請求事件について、同裁裁判所が平成八年三月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人篠原芳雄、同篠原由宏、同中野正人の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係下においては、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一 裁判官 福田博)

(平成八年(行ツ)第一四七号 上告人 大中髙重)

上告代理人篠原芳雄、同篠原由宏、同中野正人の上告理由

第一、原判決は、上告人が本件現金出納日計表の提示をしなかったことに正当な理由あると認めることはできないと判断するが、事実は逆であり、上告人は本件現金出納日計表を提示したにもかかわらず、被上告人がその受け取りを拒否したものであり、事実誤認も甚だしく、明らかな理由の不備があって、判決に影響を及ぼすこと明らかと言わざるをえない。

一、上告人は昭和五五年九月から行われた前々回の調査において、既に同日計表は原処分庁に提出され、その指導を受けているものであり、昭和五八年中旬の前回調査でも、上告人は同日計表を原処分庁に提出しているものであって、両調査では何の問題も無かったものであったことはこれまでも再三述べてきた通りであり原処分庁は同日計表の存在を確認しており、その信ぴょう性は充分承知しているはずのものである。

二、本調査においても、同日計表を提出しなかったわけではなく、まだ調査中である昭和六一年一月一七日及び同年二月六日、原処分庁の調査担当官三島至に提出を申出ているものである。更に同年二月二五日、広島国税局資料調査第二課長中島要、同主査本田豊及び右三島至にも提出を申出ているものである。

当時、調査に充分間に合う時期であるのにもかからず、右三島らは、かたくなに日計表の提出の必要はない「経験と感でやる」としてその受領を拒否し、日計表を提出しても見ないとまで断言したものである。

このことは、証拠上明らかである。にもかかわらず、本件調査で右本田らは同日計表の存在については何の報告も受けていないとして、上告人の非のみをあげつらい本処分に及んだものであり、「学ラン」ブームで不当に儲けたに違いないとの上告人に対する疑いから、処分のための処分をしたものといわざるを得ないものである。

第二、原判決は、始めから、本件仕入を簿外(利益の隠蔽)とする偏見により、両建勘定の慣行を全く無視した、明らかに経験則に反する判断の誤りがあり、上告人の主張を不当に無視して判断したものであり、判決に影響を及ぼすこと明らかな違法である。

一、上告人は、大資本による多量生産方式ではなく、一定の単位の特別注文を受けたとき、手縫による製造にて販売していたもので、経理処理もまたこの実態に合せた処理をされていたものである。

「学ラン」は、普通の学生服とは異なり、通常、大学の応援団用学生服として使用されているものであって、各大学応援団により仕様が異なるものであり、又ファッションとして着用する場合は、なおさらその者個人それぞれの好みによる仕様があるもので、上告人は、手縫による製造しているため、機械による大量生産ができないことから、「学ラン」の製造においても、注文受けて、各注文の仕様に応じて裁断して手縫により製造していった。「学ラン」を一着づつ受注していたのでは、効率が悪く工賃も高額にならざるをえないが、「学ラン」は普通の学生服より高額とはいえ所詮学生が購入するものであるから、値段にもおのずと限度があるので、上告人は、製造二〇着一単位(原反一反に相当)で注文を受けて製造するようにして、極力低価額にするようにしていた。「学ラン」のブームのときは製造が追いつかず、五着を一ブロックとし四ブロックをもって一製造工程として、上衣の表生地入手と同時の受注を受けてきた。

「学ラン」は制服ではなく、遊び着であるため、これに使用する生地は高級なものが要求され、高級な生地は品薄で一般に入手が困難であったことはこれまでも再三述べてきた通りである。上告人の場合は、「学ラン」の表生地(原反)を田川(株)からしか入手できず、その量にも限度があったため、受注がまとまったところで原反を注文するか、入手できる原反の範囲で受注することになった。

従って、「学ラン」の上衣の表生地を田川(株)から入手と前後して、大阪店での「学ラン」の受注を受けることになり、田川(株)の支払のため、大阪店の売上げの内から現金を児島工場に送り、田川(株)の表生地の仕入にあて、児島工場においてこの表生地で「学ラン」を製造し、大阪店で「学ラン」が現金で売却することとなり、結局その売上金の中に右差引いた工賃と共に売上金額が戻ってくることになる。上告人において手に入らない「学ラン」の表生地、即ち、田川(株)が取扱わない表生地については、注文者のほうで持参することもある。このような場合、上告人は裁断と縫製をして製品を注文者に引き渡すだけであるから、工賃収入を主体とすることになる。いずれにしても、田川(株)の現金仕入分は記帳する必要はなく、備忘的に記録することで十分のはずである。

二、本件の「学ラン」のように、通常の学生服や作業服の製造と異なり、表生地や裁断・縫製の仕様に注文者の特別の注文があって、表生地が通常ルートでは仕入できないか田川(株)のように表向き上告人に表生地の原反の納入を避けたいとき、取敢えず上告人において表生地の仕入代金を手持ちの売上現金で立替えておき、「学ラン」の売上金の内からこの立替額を充当するものである。

この「学ラン」の売買において、立替額は充当により当初の売上現金に欠けることはなく、この結果として売上勘定に残る「学ラン」の売上金額と立替充当額との差額は、いわば実質上「学ラン」の工賃ということになる。

別注勘定は、この間の上告人の大阪店と児島工場間の現金のやりとりを、備忘的に残すために儲けた勘定にすぎなものであり、後に述べる会計処理で明らかなように、利益に何の関係もなく、備忘上の勘定であるから、同一金額を対称勘定に両立処理をすることは当然のことである。

従って、別注勘定は、被上告人のいうがごとき非公開の帳簿即ち簿外経理処理をさすものではなく、又別注仕入と別注売上が同一金額であることに何の問題も無いものであり、むしろ金額が異なるとすれば、そのほうが問題である。

別注勘定を設けないときは、「学ラン」の売上は純額のみが記帳されるため、田川(株)からの仕入が仕入元帳上記帳されず、別途備忘台帳(乙第七号証)にのみ記帳されることになる。別注勘定を設けることにより、この田川(株)からの仕入も別注仕入に記帳されるが、利益の計上ということではいずれでも関係ないものである。勿論、これにより利益が隠蔽されたことはないのである。

田川(株)からの仕入に上様及び架空名義を使用したのは、同社の要請によるものであり、これまでにも再三述べてきた通り、表向き上告人に表生地の原反の納入ができないための暫定的な処置であり右の通り、この仕入額はもともとたの売上金の流用であり、いずれ「学ラン」の売上により売上に戻されるものであり、この「学ラン」の売上(=収入)は何ら隠蔽されることなく売上金に反映されているものである。

原判決は、大阪店、児島店とも、本件各年度の現金出納仕入れの累計額を差し引いて各月別の月末現金残高を計算すると、その残高は概ね赤字になるという、もともと計上すべきでない仕入を二重に計上するようなばかげた計算をすれば、赤字なるのは当然である。

原判決は、本件仕入れが上様及び架空名義を用した現金支払の取引であったのは、田川(株)からの要請によるものあることは認められないとしているが、本件の取引慣行の実態を理解できない、自らの不明を恥じることなく独善的判断というほかないものである。

更に、原判決は、売上除外金から上様及び架空名義の本件仕入れをおこなったにもかかわらず、これを本件現金出納日計表等の帳簿に記載しないことを、仕入を反映させていないと重ねて自らの不明の上に独善的判断に基いて批判するが、これが当を得ていないこと、再々にわたり上告人がこれまで釈明しているところであり、又存在する帳簿により実額計算が充分可能であるのにもかかわらず、被上告人は全く理解しようとせず、前記結論に固執したものにほかならない。

第三、本件青色申告承認取消処分の理由は、処分の時点と行政不服審査の時点、更に同審査の裁定時点と転々と変わっており、このことは上告人の権利の防御に欠けるものであり、適法手続に反する違法なものであり、判決に影響を及ぼすこと明らかな違法にほかならない。

一、被上告人は、青色申告承認取消処分の理由として、当初、昭和六一年三月七日付けの所得税の青色申告の承認取消し通知書では次の四点をあげていた。

〈1〉 田川(株)から架空名義で材料の現金仕入を行い、これを備付け帳簿に記載せず、確定申告にかかる仕入金額にも算入されていないこと。

〈2〉 総勘定元帳及び決算書の作成の計算基礎である現金出納日計表の提示がなく、又別注仕入に関する証票書類の保存もないこと。

〈3〉 総勘定元帳の「売上」、「仕入」の科目のそれぞれに「別注勘定」を設け、別注仕入を記帳しているが、これは昭和五八年二月一六日以後に追加記帳したと認められること。

〈4〉 別注仕入代金の支払いは、大阪店(新大阪センイシティ内)の売上を児島店において減額訂正し、その減額した金額(別注売上)を別注仕入代金にあてたとの記録や書類がなく、又減額訂正した事実も認められないこと。

二、昭和六一年九月一七日付上告人の審査請求にかかる昭和六一年三月七日付でされた昭和五五年分以降の青色申告承認の取消処分事件についての、同年一一月一日付上告人の答弁書では、一転して、原告が被上告人の調査時に現金出納日計表の一部の提出・閲覧がなかったことのみが、青色申告承認取消処分の理由となっている。

三、裁決書における本件青色申告承認取消処分の理由は、一転して、次の二点となっているものである。

〈1〉上告人が被上告人の調査時に現金出納日計表の一部が備付け等がなかったこと

〈2〉会計帳簿の記載状況が上告人の取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し、その他帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること

四、被上告人が、右の通り、本件青色申告承認取消処分の理由を変遷させることは争点を不明確にするものであり、上告人の攻防をことさら困難にするのであって、適法手続の原則に反して許されないものというべきである。

第四、原判決は、本件取引に対する無理解ないしは偏見から推計の必要を認めるが、前述の通り、それ自体あやまりであるが、上告人の事業内容の実態について何の吟味もしないまま、単純に推定課税をしたことは、明らかに法律適用における誤りがあり、判決に影響を及ぼすこと明らかである。

一、被上告人は、上告人の原反一反当たりの売上金額が、同業者の原反一反当たりの売上金額と比較して著しく低額であるというが、比較する対象そのものを間違えているものである。

上告人の営業は、これまでも述べてきた通り、もともと工縫業から始めた縫製業者であったので、表生地支給の工賃下請縫製業を主力としていたもので、機械により大量に被服を製造することを得意としていなかったものである。

上告人は、ひょんなきっかけから「学ラン」を製造することになったが、もともと仕事着の製造が本業であり、「学ラン」は特別注文に応ずるだけであり、手間がかかる割には、学生が購入するもので販売価額に市場での価格の限度が考えられ、そうそう高額な値段は付けられず、結局上告人の販売する「学ラン」のコストは割高になり、利益は圧迫されざるを得なかったものである。

従って、ブーム当時の大企業や「学ラン」専門業者に比べ、上告人の製造する「学ラン」の利幅は僅少であったものである。

二、又上告人には「学ラン」に使用する高級な表生地の入手が極めて困難であり、児島市にある田川(株)に相談を持ちかけ、ようやく富士紡績製カシミヤドスキンの入手について同社と月三〇反程度の入手契約は出来たものであって、月に入手できる原反に限度があることから、その生産量にもおのずと限度があったものであり、一方、機械化に成功した「学ラン」専門の工縫業者や大資本の被服生産の企業では、表生地の入手は容易であり、「学ラン」も大量生産が可能であることから、「学ラン」ブームに乗って、安価な「学ラン」を大量に市場で販売して、多額の利益を得たものである。

これに反し、上告人の営業は、相変わらず大学応援団を特別注文者とし、田川(株)からの僅かな表生地の供給の下に、受注生産に応ずる態勢であったため、右の大量生産型に全く太刀打ち出来ず、折角の「学ラン」ブームにも結局乗り遅れる結果となったものである。

三、そもそも、上告人は、前述の通り、通常の学生服や作業服、仕事着等実用服が専門であり、「学ラン」専門の業者ではなく、学生服の製造・販売は、上告人が業としている被服製造業の一部であり、変形学生服いわゆる「学ラン」の割合は更にその一部にすぎないものである。

当時上告人の「学ラン」の製造がその総生産額に占める割合は一〇~一五%にすぎなかったものである。

それに対し、被上告人のあげた同業者とは、当時「学ラン」ブームに便乗した業者であって、「学ラン」のみを大量に生産して、ブーム期間に大量に販売して大いに儲けていた業者である。

即ち、上告人の営業内容と被上告人のいう「同業者」の営業内容とは、そもそも質が異なるものであり、当然作業服、仕事着等の実用服と学生服と「学ラン」との販売による利益率はそれぞれ異なるから、営業内容に応じた利益率を適用すべきであること明らかであり、「学ラン」専門の「同業者」と上告人を同一の基準で比較することは明らかな誤りであると言わざるをえない。

四、右の通り、被上告人の抽出した類似業者は当時学生服というよりは「学ラン」専門の会社であり、ブームの期間にこれに便乗して、「学ラン」を大量に生産し安価に販売して高収益を上げた業者である。

上告人は、「学ラン」を少量だけ薄利で販売していたものであり、そもそも「学ラン」のみを製造していたわけでもなかったものである。

従って、上告人と被上告人が推計のために抽出の業者とは、被服製造・販売業者という意味では類似であっても、取扱う「学ラン」の単価や量が著しく異なるばかりか、営業内容において、「学ラン」専門と「学ラン」がその取扱い商品の一部にすぎないという違いがあるものである。

上告人の収益を推計するのであれば、取扱う商品別に「学ラン」、学生服、作業服等の別ごとに収益率、その取扱い量等をそれぞれ区別して考慮しなければならないはずであり、しかるに被上告人は、そのような処理をすることなく、上告人が「学ラン」ブームで不当に儲けているとの偏見をもって、一括して総量に同業者の利益率を乗じて推計したことは、明らかに誤りといわざるを得ないものである。

第五、原判決は、上告人が売上利益を簿外(=隠蔽)にしているとの偏見から、その財源をむりやりにも見付けざるをえず、本件借名預金、仮名預金を簿外預金と認定したものであるが、明らかに事実認定を間違っており、判決に影響を及ぼすこと明らかである。

一、被上告人は、簿外預金(公表外定期預金、借名預金、仮名預金をいう)として被上告人準備書面(四)の末尾の一覧表に表示しているが、この一覧表に表示されたものは上告人の事業に全く関係を有しない個人の貯蓄預金である。

そもそも、財形貯蓄預金は、預け入れは誰でも可能であるが、解約とか引き出しは名義人本人でないとできないものであり、上告人が自らのために名義人らに内緒で簿外預金として財形貯蓄預金をすることは不可能であり、ありえないことである。上告人には、そのような貯蓄預金を預け入れた事実はなく、又これを引き出した事実もなく又その必要もないものである。

尚、原判決は、石井一也・片山晃二の名義の預金について、軽率にも、預金者の登録した住所地に居住家屋が存在しないという理由だけで上告人のものと断定する誤りを侵しているものである。

二、又井原憲一の財産形成非課税貯蓄の申告書(乙第一四号証)にいたっては、後に述べるように、明らかに偽造された書面の証拠にもかかわらず、本件簿外預金の証拠として採用しているものである。

更に、井原憲一・石井一也・片山晃二の名義の預金について、被上告人が発見したとする中国銀行児島支店に、上告人が閲覧を申込したところ、これを拒否されたものである。

被上告人の主張通り、同名義預金が上告人のものであるとするならば、これを保管している同銀行が原本の閲覧を拒否する理由はないはずである。

尚、同銀行の説明では、国税局員から名義指定の書類閲覧の申込があった時は銀行としては拒否できないので指定されたものを見せただけであり、それが何の目的で何に使用されるかは銀行としては関知せず、同名義預金を上告人の預金と認めた趣旨ではないとのことであった。

これらは、原判決がこのような証拠で本件処分を正当ずけようとすることは、暴挙といわざるを得ないものである。

三、原判決は、上告人が「学ラン」で儲けた資金を同人の家族らの名義を借りた預金にしていたと認定するが、同人の家族らの預金は「学ラン」を製造する以前の昭和四二年一〇月から同家族らそれぞれが積み立ててきたものであり、「学ラン」の利益の隠し預金ではありえないものである。

1.上告人は、事務服、学生服の縫製等事業を同人の弟四人らと共に経営してきたものであるが、度々の国税当局の指導により、その事業資金の資金繰りについては、上告人の兄弟らの毎月給与の中より二~三万円と積立て、これを事業の資金繰りに借り受ける方式を採用したものである。

そのために、昭和四二年一〇月一九日より次の口座を上告人の兄弟らが開設することとなったものである(甲第四九号証)。尚、大中清一は、昭和五〇年四月二二日から新規に参加した。

上告人は、これらの預金(全て普通預金)から事業に必要な資金を借入れて、また同額を同じ預金に預け入れて返済していたものである。

このように、上告人の兄弟は毎月支給される給与の一部を各自預金積立て、その預金から随時上告人の事業が必要とする資金援助を行い、上告人とその兄弟は、互いに協力して事業運営に従事してきたものである。その預金の所有権は各名義人その人の所有であることには変わらず上告人個人の所有に係るものでないこと勿論である(甲第四九号証)。

2.このように広島銀行普通預金については国税当局の調査のつど指導を受け各人の給与の中より積立をなし、上告人の営業面に対する貸付払戻しは一切総勘定元帳を通して、計上されているものである。裏帳簿ないしは簿外で運用したことは無いものである。

上告人の兄弟らの預金は、実父大中嘉代治が死亡した昭和五五年三月一一日後は、次々に有利な財形形成貯蓄に移行していったので、それぞれ解約することとなったものである。

この財形貯蓄となってからは、簡単に中途解約ができないため、上告人の事業の必要に対応できず、これらより以後上告人の資金繰りに使用することはなくなった。

但し、大中嘉代治の預金は、上告人の事業に関する電気代、水道代、電話代等の公共料金の引き落としに使用されていたので、同人の口座は名義人を上告人の妻の大中孝枝に変更して現在に至っており、(甲第五〇号証)、大中幸一の預金も継続して現在に至っているものである。

四、中国銀行児島支店からの融資取引の有無を確認する目的で取引照合したことに対して同行から提出された報告文書(乙第二四号証)で、同銀行の貸出金取引先別残高元帳に基づいて昭和五六年九月三〇日同年一二月三一日及び昭和五七年九月三〇日現在の融資残高を確認できたのは、「預金獲得競争に追われる銀行員が各期末の締後に返済処理をしていたもの」(平成三年七月三一日付上告人準備書面第二の三)である。それは上告人の主張通り銀行の融資が各期末の締後に返済された場合、取引日の翌日に処理されるため、銀行の帳簿上及び伝票上は当該取引日の残高として残ることになるからである。

これにより、上告人の主張する当該取引日現在大中高重名義の融資取引以外に上告人及び上告人に関係すると認められる者の名義(片山晃二及び石井一也名義を含む)による融資取引などはないこと明らかである。

この石井一也、及び片山晃二名義のものは、調査者の独断で上告人に関係すると認められるとしたものであり、全く架空の論理である。

確かに、昭和五六年九月三〇日の前日二九日に大阪店より二〇〇〇万円の送金があり、昭和五六年一二月三一日の前二四には大阪店より二五七〇万円の送金があり、昭和五七年九月三〇日の後一〇月一日にも大阪店より二三〇〇万円の送金があり、それぞれ当座に入金しているが、この送金はいずれも各々支払目的があり日時に余裕なく一時的にせよ定期預金等にするなどできなかったものである(甲第五一号証)。

五、被上告人は、新たに乙第四三号証、同四四号証を提出し、訴外原玲子名義の財形貯蓄があることをもって、上告人の隠し預金の証拠であるかの如く説明するので、これも明らかな間違いである。

訴外原玲子は、同女の夫訴外原克己とともに、昭和四五年六月一日より上告人が仕上アイロンの従業員として雇用している者達である。

同訴外夫婦は、それまでは独立した仕上アイロン業者であったが、昭和四四年頃より上告人と仕上アイロンの作業の取引をした。

当時上告人の仕上アイロンの作業場所が狭かったところ、同訴外人らの仕上工場が利用可能になったことから、上告人の作業所に備付けてあった仕上アイロンの機械及びボイラー等を同訴外人の工場に移し、上告人の専属で仕上アイロンの作業をしてもらっていたものであるが、その後上告人の従業員として同作業に従事することとなったものである。

しかし、訴外人原玲子名義の定期預金や財形貯蓄の資料は、いずれも上告人とは何の関係もないものである。これらの貯蓄は、同訴外夫婦で形成したもののようであるが、いかなる資金をどこからどのようにして形成したのか、上告人には関知しないところである。

これらも後の偽造証拠と同様被上告人の思込みによる結果にほかならない。

第六、原判決には国税通則法六五条五、同法第六六条三の適用の誤りがあり、明らかに違法である。

国税について、期限後申告書の提出又は修正申告書の提出が、税務調査によって更正又は決定があることを予知してされた場合は、無申告加算税が課せられるとされている(国税通則法六五条五、同法第六六条三)。

被上告人は、本件国税の調査の時期を昭和五八年二月一六日として、国税局が行った田川の反面調査により当該別注仕入の事実が発覚した昭和五八年二月一六日以降に、昭和五五年分の総勘定元帳の「別注仕入勘定」、「別注売上勘定」を追加的に記帳している(被上告人準備書面(五)第二、一、2、第二、四、1)ことを理由に重加算税を課したものである。

しかし、本事件の最初の調査は昭和六〇年九月一〇日であり、上告人の事業所を半ば強制的に捜査し、同事業所の机の引出にあったノートを持ち帰った時点であること明らかである。これまでにも述べてきたように、追加記帳は東原調査官の指導を受けて行ったものであり、本件と全く別件の田川(株)の査察調査を受けた際、当該取引事実が発覚したために行ったものではない。

そもそも、広島国税局査察部門が別件で田川に昭和五八年二月一六日に実施した反面調査は、本件とは全く別件であり、後に述べるように、この法規上、本件の調査に包含すると解釈されるべきでないこと明らかであり、被上告人の本件処分はこのような不当な調査処分を背景になされたものであると言わざるを得ないものである。

第七、原判決は、偽造された証拠をもって事実を認定したものであり、明らかに違法な判決である。

被上告人は、訴外林延次郎に対する聴取書(乙第一四号証)において、同人に対する事情聴取にあたり、従業員の名義で財形貯蓄をしていた証拠として示した訴外井原憲一名義の財産形成非課税貯蓄(住所異動)申告書を添付している。

上告人には井原憲一なる従業員がいなかった。同人と上告人は全く関係がないものである。このことは、ちょっと調べれば明らかである。

同訴外人は昭和五七年まで大川被服株式会社に勤務していた者であるが、同申告書の変更前住所「倉敷市児島下の町六-八-四四」には同訴外人が居住した事実はなく、ゼンリンの一九八七年版住宅地図により調べてみると同住所地は同訴外人が勤務していた大川被服株式会社の本店所在地となっているものである(甲第四三号証添付の図面参照)。又同申告書の変更後の住所「倉敷市児島小川四-六-八」も同ゼンリンの住宅地図では井原憲一の表示がある(甲第四三号証添付の図面参照)が上告人方において現地を見聞したところ、井原憲一は昭和六一年一二月頃までは居住していたことが確認されたが、その後は、愛媛県宇和郡新宮村新宮三三番地(電話〇八九六-七二-二九二九)に転出しているものである。

本件財形貯蓄申告書が上告人とは全く関係が無いにもかかわらず、同申告書の欄余白に「大中被服」と手書きで書かれていることで、いかにも上告人と関係があるかのように装われている。

そもそもそのような書き込み自体が異例であり、他に例を見ない。同申告書作成者の意図が、いかにも上告人の作成にかかる文書の偽造であることは明らかである。

本件財形貯蓄申告書は、発行元の訴外株式会社中国銀行児島支店の複写の内勤務先が保管すべき控部分であるが、欄外に「大中被服」の書き込みはあっても、肝心の勤務先欄は白地のままである。この隣の訴外林延次郎の財産形成非課税貯蓄申告書の勤務先欄には上告人の社名印・住所印が押印されているのと明らかな対照をなしている。

本件財形貯蓄申告書は上告人が保管していたものでないこと明らかであるが、いったい何処の事業所が保管していたものであろうか、少なくとも、乙第一四号証作成の過程で被上告人が保管していたものであること明らかであり、それだけで被上告人が何が何でも上告人に対する本件処分を強行しようとする意図が明かというべきである。

このように、偽造したことが明らかな証拠を、原判決は偽造でないと判定して事実認定に用いたのは違法というほかないものである。

第八、結論

以上の通り、原判決には、明らかな判断の脱漏があり、又経験則に反する判断の誤りがあり、上告人の主張を不当に無視したもので、判決に影響を及ぼすこと明らかと言わざるをえず、原判決は違法で破棄されるべきものである。

以上

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